Top▲

英日翻訳講座 翻訳ダンベル
目次      🎲      講座・コラム一覧  

第107回 訳語の選択の問題

次の文を読んで、procrastinatorの訳語として適当だと思われるものをひとつ選んでください。

I'm so lazy and always wait till the last minute; I am such a horrible procrastinator!

a. 延引者
b. すぐにやらない人
c. ぐずぐずと先延ばしにする人
d. ぐず

解答はこちら     Tweet


解答・解説

第107回 解答・解説     

正解は d. です。

全体を訳してみると「私、ほんとに無精でさ、何でも土壇場までやらないんだ。ひどいぐずでね」となります。「ぐず」はご存知のとおり「動作や決断が鈍いことや、そのような人やさま」という意味を持ち、 procrastinate(やらなければならないことをぐずぐずと先延ばしにする、〜をぐずぐず引き延ばす)という自動詞と他動詞の語尾のeをorに換えたprocrastinator(決断が鈍い人)の訳として的確な表現です。

procrastinatorは英語では日常レベルでよく使われる単語なのですが、たいていの辞書には「やらなければならないことをぐずぐず先延ばしにする人」といった訳語しかなく、こんなタイプの人は日本でもよく見かけるにもかかわらず、ぴったりくる訳語がありませんでしたが、『英辞郎』に「ぐず」という訳語が載り、これはすばらしいと思ったものです。

こうした、いわゆる「こなれた表現」が満載のオンライン辞書が山岡洋一氏の『翻訳訳語辞典』(引用元ページへ)です。ちなみにprocrastinatorを引くと「逃げ口上」という訳語が載っています。これは人の性格や行動を言い表すものではなく、「責任逃れのための言葉」という意味で使われる場合の訳語ですが、これもなかなかよい訳ですね。

何年か前に、市民の要求をなかなか実現してくれない「お役所仕事」への不満を自ら解消しようと立ち上がったどこかの市役所が「すぐやる課」というのを作ったのを、皆さん覚えていらっしゃいますか? インターネットで「すぐやる課」と入力して検索してみたところ、初の「すぐやる課」を作ったのは千葉県松戸市、と書いてあるサイトがありました。それによると、あの薬局チェーン「マツモトキヨシ」の現在の社長のお父さんが、松戸市長だった1969年に作った課だとか。また、筆者の学生時代の友人の中に、まさしくprocrastinatorを自認する人がおり、自分は「恐怖の間際人間」だと言っていたものです。いずれも言い得て妙、という訳でしょう。

冗談めかした表現が許される場面であれば、こうした滑稽な言い回しを利用する手もあります。「すぐやる課」も「恐怖の間際人間」も、「なすべきことをぐずぐずと先延ばしにする」というprocrastinateを字義通り訳さず(原文に引きずられず)、「すぐやる」と「間際」といった具合に、同じ現象を別の角度からとらえています。常日頃、「こういうタイプの人を日本語で表現するとしたらどんな言い方をするだろうか?」と、楽しみながら考えるのも発想法の転換という観点から見て絶好の頭の体操になるでしょう。

問題はこちら     Tweet



Copyright (C) 2006-2024 Marlin Arms Corporation.

当サイトでは、第三者配信による広告サービスを利用しています。このような広告配信事業者は、ユーザーの興味に応じた商品やサービスの広告を表示するため、当サイトや他サイトへのアクセスに関する情報(氏名、住所、メール アドレス、電話番号は含まれません) を使用することがあります。この処理の詳細やこのような情報が広告配信事業者に使用されないようにする方法については、ここをクリックしてください。

当サイトに不適と思われる広告が表示された場合は、連絡ページからその広告に表示されるURL(アドレス)をご連絡いただけると幸いです。URLを指定することにより表示しないようにすることが可能です。それ以外の制御は今のところ困難ですのでご容赦ください。