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マーリンアームズ株式会社

DHC翻訳若葉荘「本日の講義」

第15回  翻訳を科学する その5 句読点を科学する その1(2006年2月配信)

メルマガ読者の皆さん、若葉荘の皆さん、今年もよろしくお願いいたします。(って、もう2月ですが、今年初めてですので、一応……)

最近Podcast(ポドキャスト)をよく聞いています。大人気の音楽プレーヤーiPodで聴けるラジオみたいなものですが、聴けるのは音楽だけではありません。ニュースも落語もそして語学講座もあるのです。iPodをお持ちでなくても大丈夫。WindowsでもMacintoshでも iTunesというソフトウェアをダウンロードすれば聴けるようになりますから、是非お試しください。iTunesを起動すると表示されるiTunes Music Storeから楽曲を購入することもできるのですが、Podcastを選べば、ほとんどは無料でいろいろな「コンテンツ」を楽しむことができます。

私が最近聴いたPodcastで「よかった」と思ったのは、iPodを作っているAppleの最高経営責任者スティーブ・ジョブズ氏によるスピーチのビデオ版です(iTunesをインストールした方はhttp://itunes.stanford.edu/から「Open Stanford on iTunes」をクリックしてSteve Jobs Commencement ...をクリックしてください)。探してみたらテキストもあったので、そちらも書いておきましょう(ちなみに、この翻訳もウェブ上にあり、それについていろいろな議論も行われているようです)。

http://news-service.stanford.edu/news/2005/june15/jobs-061505.html

ジョブズ氏はこのスピーチの第1部で、「点をつなぐ」話をしています。自分が今やっていることが将来思ってもいなかったところで役に立つ。その時点では単なる「点」でしかなかったものが、あとで見事につながって美しい線を描く。そんな場面が来るのです。私がこうしてメルマガの原稿を書いているこの点も、将来オリオンのような美しい星座を形作る1点になるのでしょうか。

というわけで、今日は「点と線」のお話、ではなく「点と丸」のお話です。皆さん、縦書きの文章をお書きになるときは、普通の点と丸、つまり「、」と「。」をお使いだと思いますが、横書きの文章をお書きになるときはいかがでしょうか。添削課題などを拝見するとほとんどの方は、縦書きの場合と同じく「、」と「。」をお使いのようです。ただ、中には「、」と半角の「,」を混在させている方もいらっしゃいます。さすがにこれは読む人にとって「雑音」となりますから、どちらかに統一しなければいけません。

ところで、私の著書や訳書ではだいたいカンマと丸(「,」と「。」)を使っています。編集者の方にそうお願いしているのです。「えっえ〜、カンマが使ってある本なんて見たことない〜」と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、たとえばお子さんをお持ちの方なら算数や理科の教科書を見てみてください。じつはほとんどの教科書が横書きでは「,」と「。」を使っているのです。

私が「、」ではなく「,」を使っているのは教科書で使われているからではありません。私の本はコンピュータ関連の本がほとんどなので、アルファベットの単語がたくさん出てくるのです。たとえば、次のような具合です。

 私の本にはApple、Microsoft、Linux、iPod、iTunesといった単語がよく出てくる。

今度は「,」で区切って書いてみましょう。

 私の本にはApple,Microsoft,Linux,iPod,iTunesといった単語がよく出てくる。

なぜ私が「,」を使って書きたいかというと、この方が美しいと思うからです。英単語の後に「、」があるのは、どうもさえないと思うのです。書籍の印刷に使われることの多い明朝体系のフォントを指定して印刷してご覧になると差がはっきりします。明朝体のフォントの「、」は筆で書くときの「、」だと思うのです。これがアルファベットにはどうもなじまない。

じつは、横書きの読点の問題はウェブ上でもけっこう話題になっているようで「句読点 横書き」といった単語でGoogle大明神にお伺いを立てるといろいろ面白いページが見つかります。昔々、日本語には点や丸はなかったのです。外国の文章に使われている「,」や「.」が便利なので、拝借してしまったのです。日本人らしいですね。

前回に続いて、今回も宿題をお出ししてお別れといたしましょう。句読点に関するページを読むついでに、考えてみてください。

 ●次の文章を添削せよ。理由も指摘すること。

 「かなり誇大広告であろう。」、そう思っている者も多い。

 佐智子はどこへ行っていたのだろうか?誰にもわからなかった。


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