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英日翻訳 基礎演習講座

Lesson 4 品詞の変換と関連語への変換

これまでのLessonで取り上げた人称代名詞,無生物主語,単位の変換は,いずれも主に動作の主体や対象となる名詞あるいは名詞句に関するものでした。このLessonでは,この枠を超えて訳にふさわしい表現を求めていきましょう。

まず,Lesson 2の無生物主語に関する次の例をもう一度見ます。

The application of the theorem significantly reduces tedious calculations.
訳例1 この定理の適用は退屈な計算を大幅に減らす。
訳例2 この定理をあてはめることにより,退屈な計算をかなり減らせる。
訳例3 この定理をあてはめれば,退屈な計算をかなり減らせる。
訳例4 この定理の適用により,退屈な計算をかなり減らせる。

この例の訳例2と訳例3では,無生物主語の名詞の中に隠されている動詞を見つけ出して,自然な日本語に直しました。原文の名詞applicationが訳文では「あてはめる」と動詞に変換されています。このように,品詞を変えて訳出することを「品詞変換」と呼ぶことにしましょう。単語の中核の意味は同じなのですが,原文と訳文でその品詞が変わっているわけです。

このLessonでは,品詞変換と,その親戚とも言える関連語(類語)への置き換えに焦点を絞っていろいろな例を見ていきます。原文が記述するのと同じ内容を再現するのに,原文の単語の品詞や典型的な訳語にひきずられているとどうしても不自然な表現になってしまうことがあります。そういった場合,単語の品詞を変えることを検討してみましょう。

STEP 1 無生物主語の用言への変換

すでに上で見たように,Lesson 2のSTEP 3で見た動詞や形容詞が隠されている無生物主語の構文は,無生物主語の中核となっている名詞(上の例ならばapplication)を動詞や形容詞などの用言に変換することで自然な訳が得られることがあります。この「品詞変換」については既にLesson 2でいくつか例を見ましたので,ここではやや複雑な例をひとつだけ検討してみましょう。

Familiarity with Internet is required to take this course.
訳例1 このコースを受講するにはインターネットへの精通が必要です。
訳例2 このコースを受講するにはインターネットに精通していることが必要です。
訳例3 インターネットを使えないと,このコースは受講できません。

訳例1は名詞familiarityをそのまま名詞として「精通」と訳したものです。「精通が必要」はいかにも「翻訳調」といった感じで,読んでいて引っかかります。訳例2ではこれを「精通している」と変えています。この訳でもよいでしょうが,もうひとひねりして訳例3「インターネットを使えないと」「インターネットの使用経験がないと」とするとより簡潔な表現になります。訳例3ではfamiliarityの意味とis requiredとの意味を合成して「使えないと」という表現にしています。ただし,familiarityとis requiredがある時はいつも「使えないと」としてよいとは限りませんので注意が必要です。あくまでも周囲の語句との関係 ― 文脈 ― から決まるものです

STEP 2 形容詞+動作者のパターン

次のパターンは文法の教科書などでよく登場するものです。

Mark is a good swimmer.
訳例1 マークはよいスイマーです。
訳例2 マークは上手に泳げる。
訳例3 マークは泳ぎがうまい。

訳例1のように「よいスイマーです」あるいは「よい泳ぎ手です」としてはあまりに不自然です。訳例2のように「上手に泳げる」としたり,訳例3のように「泳ぎがうまい」あるいは「泳ぐのがうまい」などとすれば違和感がありません。訳例2の場合swimmerという名詞が「泳げる」と動詞に品詞変換されています。また,goodという形容詞が「上手に」という,動詞「泳げる」を修飾する副詞に変換されています。

訳例3では,名詞swimmerが「泳ぎ」という名詞に,形容詞goodが「うまい」という形容詞になっているので「品詞」が変わっているわけではありません。しかし,「泳ぎ手」あるいは「泳者」に相当するswimmerが,同じ意味を表す語ではなく,関連はするものの別の意味を持つ単語である「泳ぎ」に変換されています。このような語の置き換えを「関連語変換」と呼ぶことにしましょう。品詞変換も品詞が違う関連語への変換ですから,関連語変換は品詞変換を含む概念になります。

形容詞goodは同じく形容詞の「うまい」に変わっていますから,これも品詞変換とは言えませんが,good swimmerと,名詞を前から修飾する形容詞だったものが,「泳ぎがうまい」と,いわゆる「述語的な」形容詞に変わっています。形容詞を,名詞を修飾する「限定的形容詞」と,このような「述語的形容詞」に細分類すれば,その間の変換とは言えるので,「品詞細分類変換」とでも呼ぶことは可能でしょう。

用語の問題はともかく,原文の単語と同じ品詞の語や同一の意味を表す語に固執せずに,別の品詞の語や関連語まで考えてみると,その場面によりふさわしい表現が思い浮かぶ可能性が高くなることはしっかり覚えておきましょう。

なお,下のような例もありますので,a good swimmerならば常に「泳ぐのがうまい」とすればよいというわけでもありません。

Sally was a good swimmer in high school and college and now competes in the Senior Olympics in swimming.
訳例1 サリーは高校と大学で泳ぎがうまくて,現在はシニア・オリンピックの水泳競技で競争している。
訳例2 サリーは高校や大学では優秀な水泳選手だった。今はシニア・オリンピックの水泳競技に出場している。
訳例3 サリーは学生時代,少しは名が売れた水泳選手だった。今ではシニア・オリンピックの水泳競技に出場している。

この例の場合,「泳ぎがうまい」というよりは「(ある程度は)優秀な選手であった」ということをa good swimmerで表しているように読み取れます。訳例1のように「高校と大学で泳ぎがうまい」ではとても奇妙な感じを受けてしまいます。訳例2のように「優秀な水泳選手だった」とすれば違和感がなくなります。訳例3のようにもうひとひねりしてみてもよいかもしれません。

さて,形容詞+動作者のパターンをもつ他の例も見てみましょう。

Mark is such a good correspondent.
訳例1 マークは非常にすぐれた文通者です。
訳例2 マークはじつに筆まめです。
訳例3 マークは私の出した手紙にすぐに返事をくれます。

correspondentをどう訳せばよいか困ってしまいますが,correspondentの意味する内容を考えて,それを日本語で表現しましょう。訳例2のように「筆まめ」という表現を思いつけばそれでもよいでしょうし,訳例3のように「私の出した手紙にすぐに返事をくれます」といった表現にすると,少し意味が変わってしまいますが,ピッタリくる場合もあるかもしれません(周囲の文によっては訳例3のようにできない時も,もちろんありますので注意が必要です)。

He is a vicious drinker.
訳例1 彼はひどい飲み手です。
訳例2 あいつは酒癖が悪い。
訳例3 あいつが酒を飲むと始末に負えない。

この例も同じパターンです。訳例1のように「ひどい飲み手」でも何となく意味はわかりますが,そのままにして許される表現ではありません。

訳してみましょう

原文の情報
ジャンル ミステリー(英国)
翻訳時の注意 runnerをそのまま「走者」,「走り手」と訳したのでは,いかにも翻訳調になってしまいますから,工夫してみてください。

We were both swift runners1) and in fairly good training, but we soon found that we had no chance of overtaking him. We saw him for a long time in the moonlight until he was only a small speck moving swiftly among the boulders upon the side of a distant hill. We ran and ran until we were completely blown, but the space between us grew ever wider. Finally we stopped and sat panting on two rocks, while we watched him disappearing in the distance.

(The Hound of the Baskervilles by A. Conan Doyle)

語句

swift
速い
in good training
練習を積んでコンディションがよい
have no chance of 〜ing
〜する見込みがない
overtake
追いつく
boulder
巨岩
blown
息切れした
pant
ハアハアと荒い息をする

あなたの訳

 

訳例

私たちは共に俊足で,しかも日頃トレーニングを積んでいたにもかかわらず,彼には追いつけそうにないことがじきにわかった。彼の姿は月明かりの中で長い間見えており,しまいにはちっぽけな点となって,はるかかなたの山腹にある大きな岩の間を抜け,どんどん遠ざかっていった。私たちは息が続かなくなるまで走りに走ったが,距離は広がる一方だった。ついに私たちは足を止め,それぞれ岩に腰かけてあえいでいたが,彼はその間に遠くへ消えていった。

解説

  1. 「走者」や「走り手」という訳語をそのまま使っていては自然な訳語は無理でしょう。品詞を変える必要はありませんが,swift runnerをまとめて「俊足」とするといった工夫が必要です。

STEP 3 形容詞と副詞の変換

今度は形容詞や副詞に注目してみましょう。

Some boys wore red caps.
訳例1 何人かの少年は赤い帽子をかぶっていた。
訳例2 赤い帽子をかぶっている少年が何人かいた。
訳例3 赤い帽子をかぶっている少年もいた。

訳例1の「何人かの少年」という言い方は,いかにも翻訳調ですので,限定的な(名詞を修飾する)形容詞であるsomeを,「何人かいた」と述語に直して訳しました。前後関係にもよりますが,訳例3のように「少年もいた」とした方がよい場合もあるでしょう。

上の例は形容詞を述語にした例ですが,今度は副詞を述語にする例です。

Old people often fall and break their hip bone.
訳例1 老人はしばしば転んで腰骨を折る。
訳例2 老人は転んで腰骨を折ることが多い。

訳例1のように「しばしば〜する」とそのまま副詞で訳すといかにも翻訳くさい表現になります。訳例2のように「〜することが多い」とすれば読みやすい日本語になります。

次の例は形容詞を副詞に変える例です。

Uncle brought us many apples.
訳例1 叔父は私たちにたくさんのリンゴを持ってきてくれた。
訳例2 叔父はリンゴをたくさん持ってきてくれた。

「たくさんのリンゴ」,「何本かのペン」,「少しの酒」といった言い方も非常に翻訳調で,日本語らしい表現とは言えません。「リンゴがたくさん」,「リンゴをいくつも」といった言い方に変えると自然になります。

次は形容詞を名詞に変換している例です。この例文に登場するspyware(スパイウェア)はパソコンの利用者の使用状況や個人情報などを収集して,自分たちのコンピューターに送ってしまうようなソフトウェアのことです。コンピューターウィルスのようにアドレス帳にあるアドレス全部にメールを送信したりファイルを削除したりはしませんが,悪さをするので自分のパソコンに入れたくないソフトウェアであることには変わりがありません(こういったソフトウェアを総称してmalwareと呼びます)。

Most antivirus software makers have said they will offer spyware protection support in the near future.
訳例1 大部分のアンチウィルスソフトのメーカーは,彼らが近い将来,スパイウェア保護のサポートを提供すると語った。
訳例2 ウィルス対策ソフトのメーカーの大半が,近い将来,自社製品にスパイウェアに対する保護機能を組み込む予定であることを明らかにしている。

訳例1のように「大部分のアンチウィルスソフトのメーカーは」とすると「大部分のアンチウィルスソフト」を作るメーカーかもしれないというさも出てしまいます。訳例2のように「〜の大半」とするとこのような曖昧さは生じません。訳例1の「彼ら」という表現についてはLesson 1の内容を思い出してください。offer 〜 supportの表現もLesson 2で説明しました。「サポートを提供する」と直訳すると変ですから,自然な表現に直しましょう。ソフトウェアに新たな機能を追加することを表すには「組み込む」といった表現がピッタリです。

訳してみましょう

原文の情報
ジャンル 文学(子供向け)
翻訳時の注意 カナダの作家Marsha SkrypuchさんのTips for Beginning WritersというページにあるTypes of Kids' Booksという解説文の一部です。雰囲気をつかむために,文章全体を読んでから翻訳をはじめた方がよいでしょう。

Early chapter books are divided into 4 levels: one, two, three, and four. These levels approximate grade levels, but not quite.

Some1) of the early chapter books have the grade level written right on them, but many more1) don't. And many parents incorrectly give pre-reading kids chapter books when they should be reading them traditional picture books.

Some examples of early chapter books? I consider The Cat in the Hat and other Dr. Seuss2) books as early readers, although they don't fit perfectly into the category. Many1) parents read these to young children instead of saving them for when they're able to read on their own. The repetition, the rhyming, the looniness, are all hallmarks of good books for newly independent readers.

(Tips for Beginning Writers by Marsha Skrypuch, http://www.calla.com/tips.html
copyright (c) 2001 Marsha Skrypuch, All rights reserved.)

語句

chapter book
チャプターブック(複数の章から成る文章主体の本)。ここでは,絵本の次の段階として読む本という側面に焦点が当たっている。

あなたの訳

 

訳例

年少者向けのチャプターブック(章立てになった文章が主体の本)はレベル1からレベル4の4つの段階に分けられます。学年とほぼ対応していますが,厳密に一致するわけではありません。

チャプターブックの中には,対象学年を明記してあるものもありますが,ないものの方が多いのです。このため,普通の絵本を読んであげるべき段階の子供たちにチャプターブックを与えてしまっている親が大勢います。

年少者向けのチャプターブックの例としては,The Cat in the HatなどDr. Seussの本があげられると思います。チャプターブックという分類に完璧に当てはまるわけではありませんが。この種の本は子供達が自分で読めるようになるまで取っておくのがよいのですが,子供に読み聞かせてあげる親が多いのです。ひとりで読めるようになった子供達に勧めたい本には,繰り返し,押韻によるリズム,奇想天外な要素といった特質が備わっています。

解説

  1. 第2段落のsomeやmany more,第3段落のManyは品詞変換を検討しましょう。
  2. 書名,著者名などは日本語に直すのが原則ですが,ここは「チャプターブック」という日本ではあまりなじみのない言葉を説明する場面で例をあげているところですので,原文のままでも支障がないと考えてそのままとしました。英語にある程度詳しい方が読んでいるだろうという前提の上で翻訳しているわけです。

STEP 4 名詞を述語に展開

Lesson 2のSTEP 3「動詞的な無生物主語」で見た "A few minutes ride on the gondola brings you ..." のrideや "The application of the theorem significantly reduces ..." のapplicationのように,英語には名詞の中に動詞や形容詞などが「隠されている」表現があります。こういった表現は,すでに見たように,そのまま名詞として訳すと落ち着かない表現になってしまうことが多いので,品詞変換(関連語変換)をして自然な表現が出てこないか試してみましょう。

無生物主語のところではそういった名詞が主語として表れる例を見ましたので,こういった名詞が主語以外の役割をしている例をいくつかあげます。

Thanks to her mother's encouragement, Donna was able to graduate from senior high school.
訳例1 母の激励のおかげで,ドナは高校を卒業することができた。
訳例2 母の励ましのおかげで,ドナは高校を卒業することができた。
訳例3 母が励ましてくれたおかげで,ドナは高校を卒業できた。

訳例1のように「激励のおかげで」としてもそれほどの違和感はありませんが,母親がする行為としては「激励」よりも「励まし」の方がピッタリきます。家庭内のことが話題になっていることを考えると,「母の励ましのおかげで」とするより「母が励ましてくれたおかげで」と動詞に変えた方が,この場の雰囲気にマッチした表現と言えるでしょう。文脈に依存しますので,一概には言えませんが。

Now he can swim thanks to his father's training.
訳例1 父のトレーニングのおかげで,彼は今では泳ぐことができる。
訳例2 父がトレーニングしてくれたおかげで,彼は泳げるようになった。
訳例3 父が教えてくれたおかげで,彼は泳げるようになった。

この例でも,それぞれの訳文にそれほど大きな違いはありません。ただ,訳例1がなんとなく突き放したような,客観的な感じを与えるのに比べ,訳例3の方が著者と「彼」との間が近いように感じられます。

The president told us the cancellation of the party.
訳例1 社長はパーティーの中止をわれわれに告げた。
訳例2 パーティーは中止だ,と社長は私たちに言った。

訳例1の「パーティーの中止をわれわれに告げる」でももちろん意味は明確なのですが,訳例2のように社長が言った言葉がそのまま出てきた方が,ずっと臨場感のある表現になります。cancellationには動詞が隠されていると考えて,the cancellation of the partyをthe president will cancel the partyという節に展開してみるとよいでしょう。

大原則4 不自然さを感じたら,品詞変換,関連語変換を試す

原文をそのままの英語の構文どおりに翻訳してみて不自然だと感じたら,別の品詞への変換,あるいは関連語への変換を試してみましょう。自分が普段使うはずの自然な表現を思い出すきっかけになることがあるはずです。

訳してみましょう

原文の情報
ジャンル 新聞記事(文化)
翻訳時の注意 上で勉強したことを思い出しながら,原文の品詞に引きずられないよう,自然な日本語訳を考えてみてください。

Female rice farmers are plowing their fields at night in the nude to please the rain god during a dry spell in southwestern Nepal, a news report said Sunday.

A 35-year-old farmer, Ambika Tharu, said she and other women are daring to bare all for the rain god because of a delay1) in the annual monsoon season and the need2) for precipitation for their rice crops.

(The Japan Times, July 5, 2004)

語句

plow
耕す
in the nude
裸体で
dry spell
日照り続き

あなたの訳

 

訳例

日曜のニュースによると,ネパール南西部では日照り続きのため,稲作農家の女たちが夜,雨の神を喜ばせようと裸で田を耕しているという。

35歳の農婦アンビカ・サルーの話では,雨期の開始が遅れ,稲に雨が必要なことから,他の女たちと共に裸になって雨乞いをしているそうだ。

解説

  1. delayを名詞のまま「遅れ」などとすると不自然な表現になってしまいます。
  2. needを「(降雨の)必要性」とするのも,同様に不自然です。

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