マーリンアームズ株式会社

DHC翻訳若葉荘「本日の講義」

第8回 百科事典としてのウェブ

前回、今年最初のメルマガで「私にとって、今年は大変な年になりそうです」と書きましたが、別の意味で本当に大変な幕開けになってしまいました。家族みんながどうやら「化学物質過敏症」になってしまったようなのです。最近あちこちで耳にするようになった「シックハウス」が原因のようです。一番症状が重いのは息子で、現在入院中。親2人も自宅にはいられなくなってしまって、現在ホテル暮らしをしながら、このメルマガの原稿を書いています。

じつは以前から「ひょっとするとシックハウスかも」と疑い、いろいろ対策を立ててみてはいたのですが、冬になってどうしても窓を閉めがちになったせいか、昨年末から息子の具合が急激に悪くなり、おなかが痛い、ふらふらして力が入らない、瞬間的に失神する、喘息のようにぜいぜいするなどといった症状が出てきてしまいました。この病気が始末に負えないのは、薬などで症状を和らげる手段がないことです。ともかく症状が出ない所を探すしかないのです。最初、病院で入院させてくれなかったので、ホテルをいくつかあたったのですが、最初の2つのホテルは、症状がよくならずだめで、3つめの、部屋に窓があるやや古めのビジネスホテルでようやく落ち着くことができました。最初は息子だけだったのですが、そのうち我々夫婦も家に戻ると気分が悪くなるようになってしまいました。

さて、「化学物質過敏症」ってどんな病気かご存じですか? この大騒動が「一件落着」となったおりには、ウェブページで事の顛末を詳しくご紹介し、本でも出して印税でも稼がなければたまらんと思っているのですが、当座は、いつものようにGoogle大明神で調べてみましょう。

前回ご紹介したInternet Explorerの「Googleツールバー」や話題のブラウザFirefoxの「検索バー」などに、「化学物質過敏症」と入れて検索してみて……いただいてもいいのですが、今回はちょっとひねりを加えてみましょう。「化学物質過敏症」とだけいれるのではなく「化学物質過敏症とは」と「とは」をつけて検索してみてください。言葉の意味を知りたいときには、このように最後に「とは」をつけて検索すると、この言葉の意味(定義)が書かれたページが一発で表示される可能性が高くなります。何かを定義するとき、日本語では「〜とは...」と説明することが多いのを利用するわけです。この方法を「とは検索」と呼ぶのだそうです。

去年の暮れ、まだ息子が具合が悪くなる前にやっていたパズルに「次の中からピン芸人を選べ」といった問題がありました。私も息子も(そのときは)「ピン芸人」の意味を知らなかったので、「ピン芸人とは」とグーグってみるとすぐに意味がわかりました。今やクイズを解くにも検索エンジンは欠かせません(ピン芸人のひとり、波田陽区流に言えば「化学物質過敏症になってしまったんですから! ザンネン!!」)。

「とは検索」では日本語のページしかマッチしませんが、英語のページを検索対象にしたかったら、「define 〜」と検索します。たとえば「define Multiple Chemical Sensitivity」とすると、化学物質過敏症の英語の「定義」が、いくつかのウェブページから引用されて表示されます。これは、日本語版のGoogleにはない機能ですね。恐らく近い将来には日本語版にも追加されると思いますが。

さて、検索エンジンを使うときはいつでもそうですが、ウェブ上の情報はその信頼度にばらつきがあり、確実な情報を探すのが大変です。Googleなどの検索エンジンが上位にあげてくれるサイトの信頼度は高いことが多いのですが、それでも嘘八百を並べたページが結構人気があったりするので、上位のサイトだからといって無条件に信頼するわけにはいけません。

これに比べて歴史のある百科事典ならば、出版社が選出した信頼のおける人が書いていますから、ウェブページと比較したら、はるかに信頼度の高い情報が提供されています(ただし、特にコンピューター関連の翻訳をしていると身にしみて感じるのですが、ほとんどの書物に、最低でも数カ所は間違いがありますから、どんな書物であれ無条件に信じるのはやめましょう)。

そこで、検索エンジンとは別に、ウェブ上でも従来の百科事典のように信頼度の高い情報を提供しようというサービスもいくつか登場しています。一番手っ取り早いのは、かつて書籍で販売していた百科事典をベースにしてウェブ上で使えるようにしたものですね。たとえば、ここに行けば『Encyclopedia Britannica』が見られます。簡潔な説明が得られる無料のサービスと、より細かな情報が得られる有料サービスがあるようです。日本語についても、たとえば平凡社の『世界大百科事典』が引ける「ネットで百科@Home」などがあります。

驚きなのは、自分たちで誰でも使える百科事典を作ってしまおうという人たちがいることです。代表格はWikipedia(ウィキペディア)です。英語版で46万項目、日本語版でも9万項目以上の解説を無料で参照できます。このほか、190を超す言語で作成されているそうです。「化学物質過敏症」も「シックハウス」も項目としては登録されていないようですから、少し時間ができたらここに載せておきましょうかね。

インターネットは、1990年代に入って商用の利用が許されるようになるまで、研究者中心のコミュニティで発展してきました。今でも、善意の人々がボランティアでお互いに助け合うという精神が、とくに研究者の間では生き続けています。「人類皆兄弟」「お互いに助け合おう」というわけです。

前回ご紹介したブラウザのFirefoxも、同じように世界中のボランティアが集まって開発しています。多くの皆さんがお使いのブラウザであるInternet Explorer(インターネット・エクスプローラー)はWindowsの開発元であるマイクロソフトが開発していますから、マイクロソフトの都合で開発が進みます。このため、Windowsで動作するものしか提供されていません。これに対して、FirefoxはLinuxやMac OSなどでも動作するバージョンが用意されています。しかも、世界中の技術者の知恵が詰まっていますので、(Windows固有の機能を使ったりするものを除けば)Internet Explorerよりも高機能で、ウィルスなどに対してもより安全になっています。とくに、Windows 98などの古めのOSを使っている方は、Internet Explorerではうまく表示されないけれど、Firefoxならば大丈夫というページも結構あるようです。(もちろん、この逆の場合もあります。Windowsの特殊な機能を使っているページは、Firefoxではうまく表示されない場合があります)

このほか、翻訳者に関係がありそうなものとしては「英辞郎」という辞書のプロジェクトも似たような形態で発展してきたものと言えるでしょう。英辞郎は現在、項目数132万の巨大な辞書に成長しています。和英辞郎という和英版もあって、英語を書くときにとても重宝します。

このように、従来は一部の専門家が長い年月をかけて作ってきてものを、世界中の人々が自分の持つ知恵を出し合って作ってしまうという動きは、ますます加速しそうな気がしてきます。さて、今回はこのくらいにして、次回も、もう少しこのあたりを考えてみようと思います。

最後になりましたが、前回のメルマガでお知らせしたインターネットを使った通信講座「DHC-オンライン講座」がいよいよオープンします。第1弾は、「翻訳家を目指す人の 英日翻訳基礎演習コース」です。もうひとつ、いつものように「機械翻訳 しっかり入門」に翻訳ソフトに関する話題を追加しておく予定ですので、ご興味のある方はご覧ください。現在非常事態につき、皆さんにこのメルマガが届くまでに更新できなかったら、ごめんなさい。代わりにと言っては何ですが、もし、私で解決できそうな疑問、質問がありましたら「お問い合わせ」ページから、私宛にお寄せください。お答えできるものについては、メルマガなどでお答えを差し上げる予定です。


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