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マイクロインタラクション    Dan Saffer著    武舎広幸+武舎るみ訳

まえがき

本書の概要

電気製品のスイッチを入れる、オンラインサービスに接続する、モバイルアプリで天気予報を見るなど、私たちは日々さまざまな場面で「マイクロインタラクション」をしています。マイクロインタラクションとは、ある作業をひとつだけこなす最小単位のインタラクション(機器とのやりとり)のことです。ひとつのマイクロインタラクションが、ひとつのアプリになっている場合もあれば、大規模なシステムの一部になっている場合もあります。すぐれたマイクロインタラクションは、ユーザーのニーズをきちんと踏まえる形で、目的の作業を効果的に、ユーモアを込めて、優雅にこなすことができます。マイクロインタラクションが、「こよなく愛する製品」と「許容範囲の製品」を分ける要因になることは多いのです。

そんなマイクロインタラクションを「解剖」したのがこの本です。マイクロインタラクションを実現する現場の皆さんのお役に立てれば幸いです。まず最初の章でマイクロインタラクションの枠組みを紹介し、その枠組みを構成する要素を続く各章で詳しく解説し、マイクロインタラクションの効果を最大限に引き出すための指針も紹介しています。実践していただければ、皆さんの製品の質が向上し、ユーザーの満足度も上がり、ブランドの価値も高まることでしょう。

対象読者

よりよい製品——特に、よりよいデジタル製品——を目指している人であれば、どなたにでもこの本を読んでいただきたいと思っています。あらゆる分野のデザイナー、開発者、研究者、製品管理者、評論家、起業家の方々に、新しいアイデアのきっかけ、見本や模範を提供することを目指しています。

しかしそんな中でも特にこの本を読んでいただきたい人がいます。それは、「これは細かいことだけれども改良する価値が絶対にある、これを改善すれば製品が格段によくなる」と主張して、クライアントや開発者や製品管理者やプロジェクトマネージャーを説得しようと苦心してきた人たちです。この本が出版されたことで、この「細かいけれど改良する価値が絶対にある」要素に「マイクロインタラクション」という呼び名ができたのですから、相手を納得させようとがんばる皆さんの言葉も説得力が増すはずです。

本書の構成

小さいけれども重要なテーマを扱っているこの本の構成は次のとおりです。

1章 マイクロインタラクションのデザイン
マイクロインタラクションとは何かを紹介し、一見些細なものに思えるマイクロインタラクションが実は非常に重要である理由を説明します。続いて、マイクロインタラクションの構造を説明し、すべてのマイクロインタラクションに当てはまるパターンを提示します。さらに、2章以降で詳しく説明する「マイクロインタラクションをベースにして、アプリやサービスにまとめ上げる方法」の概略を紹介します。
2章 トリガー
マイクロインタラクションが始まる瞬間である「トリガー」について解説します。手動トリガーとシステムトリガー、「データを前面に出す」という原則も紹介します。
3章 ルール
マイクロインタラクションを定義する「ルール」について解説します。「ゼロから始めない」の原則も含めて、ルールを作る経緯や、ルールが包含すべきものを紹介します。
4章 フィードバック
ユーザーにルールを知らせる方法である「フィードバック」について解説します。フィードバックをいつ、どのように提示すべきか、そしてフィードバックにはどのような種類(視覚系、聴覚系、触覚系)があるのかを紹介します。
5章 ループとモード
マイクロインタラクションのメタルール(ルールのルール)である「ループ」と「モード」について解説します。さまざまな種類のループとモード、それに「ロングループ」について紹介します。
6章 マイクロインタラクションの実践例
マイクロインタラクションのモデルのすべての要素を使って、サンプルを3つデザインします。モバイルアプリ用のもの、オンラインアプリ用のもの、家電製品用のものです。また、複数のマイクロインタラクションを組み合わせる方法も紹介します。
付録A マイクロインタラクションのテスト
マイクロインタラクションのテストの手順を概説します。
参考文献
参考資料の一覧です。

なぜ今マイクロインタラクションか

この10年、デザイナーたちは「大きな視野で考えよ(think big)」「デザイン思考を実践せよ」「『正解』のない時代だ。正解のわからない問題にも果敢に取り組め」といった指示を受けながら仕事をしてきました。こうした指示の最大の長所は、どんなに大規模なデザインプロジェクトでも適用可能なことでしょう。たとえば、大企業の事業再編計画においても、都市計画など国レベルの施策に関するデザインにおいても、こういった指示を出しておけば「的外れ」になることはありません。

デザインに関するこのような傾向が、今後どのような結果を生むかは定かではありません。しかし、こうしたマクロな尺度で仕事を進めると、デザインの大事な部分である「喜びを生む細部」が欠落しがちになることは否定できません。私たちが「こよなく愛する製品」は、細部への配慮が行き届いた製品です。美しい曲線、満足感を生むクリック、わかりやすいメンタルモデルといった細部への配慮が大きな意味をもつのです。

これはデザインにおける、もうひとつ別のアプローチです。壮大なトップダウン方式ではなく、小さなものから心を込めて丹念に作り上げていくボトムアップのアプローチです。デザイナーにとっては得意分野の、目に見える結果をすぐに出せるタイプの仕事です。それでいてこれも世界を変える方法です。一見取るに足りない瞬間を、「喜びの瞬間」に変えていくのです。

小さくて美しくて気の利いた働きをする製品は私たちに喜びを与えてくれます。ユーザーの側にも作り手の側にも。しかし、創り出すには技術と時間と思考力が必要です。「大きな問題」に取り組むのに負けず劣らず大変で立派な仕事です。結局のところ「人生、もっと楽しく!」と思わない人などいないですから。