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インタフェースデザインのお約束     Will Grant著 武舎広幸+武舎るみ訳

まえがき

本書で紹介する101のルールは、デジタル製品のデザインに役立つ広範な指針をまとめたものだ。もちろん有益な指針はほかにも山ほどあるが、この101のルールは大半の製品のユーザビリティや性能を高める上で必須かつ基本のツボであり、マスターすれば時間を節約し顧客満足度をアップすることができる。

さて、ウェブ界が成熟を遂げる中で、いつしか大切なことが見過ごされるようになった。「UXはアートではない」という点だ。UXはアートの対極にある。そのようなUXをデザインするのは「ユーザーのために力を尽くす作業」であるべきなのだ。見栄えの良さはやはり必須の要件ではあるが、それを満たすためにしかるべき機能がおろそかになっては困る。にもかかわらず、長年のあいだに粗悪なデザインが徐々に浸透し、些細なものではあっても数えあげれば100にものぼる側面で「劣化」してしまったデジタル製品が一部に見受けられる。

一体どういう経緯でこんな事態に陥ったのか。ひとつにはブランディングを専門とするエージェントの関与があげられる。こうしたエージェントが依頼主の会社に「近頃、企業の間じゃ『写真は思い出メモリー』っていうコンセプトがトレンドなんですよ。ですから写真メニューも『メモリー』って呼ばないと」と焚きつけた。だが実際の製品を手にしたユーザーにはわけがわからず、自分の撮った写真さえすぐには見つけられなくなってしまった。

また、CEOがじきじき選んだ爽やかな水色を、ウェブページの担当者が見出しという見出しに惜しみなく使ってしまう、というケースもある。携帯画面の白地を背景にしてこれを読まされるユーザーはたまったものではない。

さらにこんな要因もある。マーケティング部門が「フルスクリーンのポップアップでユーザーのメールアドレスを集めれば、第4四半期のCRM(顧客関係管理)メトリクスを改善できる」と判断してその実装を要請し、こう言い添える。「あ、それでね、『閉じる』のアイコンはあんまり大きくしないでくださいよ。ユーザーに本当に閉じられちゃったら困るので」。

以上、いずれもインターネットの世界では散見される事例であり、こんな企業はユーザーのニーズを忘れ去り、「ユーザー第一」の視点を失ってしまったと言うほかない。ところで私はこの20年間、デジタル製品のデザインにまつわるさまざまなノウハウや秘訣を現場で身につけてきた。そのすべてが私の頭の中で渾然一体となり、いわば「UXデザインの巨大なOS」のようになっている。だから本書のためにそのひとつひとつを浮き彫りにするのは容易な作業ではなかった。

ところで私は常々、自分はデザインにかけては純粋主義者ピュリストだと公言している。もちろん美的感覚も重視してはいるが、それはあくまでも精神衛生を守る必須要件だと捉えている。そして表面上のデザインの美しさの背後にまで目を向け、使い勝手も性能もよいソフトウェア――各種機能が一目瞭然で、使い方もわかりやすく覚えやすい製品――を生み出す努力を重ねてきた。

そんな私の経験を踏まえて書き上げたこの本は、まだ経験の浅いデザイナーに対しては「成功への近道」を示し、経験豊富なUXのプロに対しては、従来公認されてきた思考法にあえて意義を申し立てるというスタンスをとっている。

また、101のルールは、タイポグラフィ、コントロール、カスタマージャーニー、各種要素の統一、UX全般に関わるプラクティスといった項目に大別した。クイックリファレンス的に興味のある箇所を選び選び読んでいただいても、私が当初から意図したように第1のルールから始めて通読していただいてもかまわない。

「これには賛成できない」と思えるルールもあるかもしれないが、それはそれでかまわない。なにしろこれは私が自説を披露する本なのだ。とはいえ、時にはそのような意見の相違が、これまで良しとしてきた考え方の見直しに、ひいてはユーザーのゴールを達成するより良い方法の模索につながる可能性もあり得るだろう。

読者の皆さんが「よくある落とし穴」を巧みに回避し、自信をもってユーザーのために闘い、すばらしいユーザーエクスペリエンスを実現できるUXのプロへと成長を遂げる上で、本書がお役に立てることを心から願っている。

2018年8月
ウィル・グラント